💬 雑談
小説『足りない』7 夜
みね·
#小説部#足りない
どもども!みねだよ〜!!
溜めておいたものはすぐに出したいタイプなので!7も出しちゃいます!!
3500字なので長いです!w
…あの、一つだけ。
⚠️この回は話の大きな転換期であり、一部の方にとっては不快になる可能性があります。
詳しく言うとネタバレになっちゃうので言えないのですが、閲覧注意ですし、この話を読んで気分を害してしまっても責任は取れません。
あらかじめ把握お願いします。
※この物語はフィクションです。
作中に登場する人物名・団体名などは実在するものを使用していますが、ストーリー・設定・出来事はすべて創作です。実在の人物・団体・事実とは一切関係ありません。
また、本作品には事件や犯罪を題材とした表現、心理的に重い描写が含まれます。あらかじめご了承ください。
7 夜
6月8日 21:37
スタジオを出たときには、昼間まで残っていた明るさはもうすっかり消えていた。建物の自動ドアが閉まると、外の空気が思ったより冷たく感じられた。仕事中はほとんど気にしていなかった風が、頬を撫でる。昼間の熱を少しだけ残したアスファルトからは、まだ微かな温もりが上がっていた。
僕たちはしばらく、何も話さずに歩いた。今日だけで、一体どれくらい同じ話をしただろう。
ソロライブのこと。海外イベントのこと。三人で続けていくこと。若井がやりたいこと。僕が守りたいもの。何度言葉を重ねても、結局どこかで同じところに戻ってきてしまう。
隣を歩く若井は、いつもより静かだった。昼間、あれだけ強い口調で自分の気持ちを話していたのが嘘みたいだった。時折、何かを考えるように俯いては、また前を向く。僕も何も言わなかった。
何か言えば、また同じ話が始まるような気がした。
しばらくして、若井が足を止めた。
「……ねえ」
僕も立ち止まる。
「…どうしたの?」
若井は少し迷うように視線を彷徨わせてから、遠くを見るように顔を上げた。
「ちょっと、あそこ行かない?」
「あそこ?」
「ほら。いつものとこ」
その言葉を聞いて、すぐに場所が浮かんだ。僕たちが昔から何度も行った場所。仕事の合間に三人で抜け出したこともあったし、何かを話したいときに自然と集まることもあった、街から少し離れた高台。そこへ向かう道は、夜になると人の姿がほとんどなくなる。街灯も一定の間隔では並んでおらず、明るい場所と暗い場所が交互に続いていた。
「……今から?」
「うん」
若井は小さく笑った。
「もうちょっとだけ、話したい」
僕は若井の顔を見た。疲れているようにも見えた。それでも、どこか必死だった。
「……分かった」
そう答えると、若井は歩き始めた。僕もその後ろをついていく。
涼ちゃんは来なかった。スタジオを出る前に、若井が「今日はもう帰っていいよ」と伝えていたからだ。涼ちゃんは少し迷ったあと、「じゃあ、また明日」と言った。僕たちも同じように返した。
その「また明日」という言葉が、あんなにも簡単に口から出たことを、今でも覚えている。
22:02
高台へ続く坂道を上っていくにつれて、街の音が少しずつ遠くなっていった。車の音も、人の話し声も、いつの間にかほとんど聞こえなくなっていた。代わりに聞こえるのは、風に揺れる木の葉の音と、自分たちの足音だけだった。
やがて道が開ける。目の前に広がったのは、夜の街だった。
建物の窓や道路を走る車のライトが、小さな光になって遠くまで続いている。昼間ならただの街にしか見えないのに、夜になると別の場所のように感じる。若井は立ち止まり、その景色を眺めていた。
少し先には低い柵があり、その向こう側は急に地面が落ち込んでいる。暗闇のせいで、その先がどこまで続いているのかはっきりとは見えなかった。風が吹くたび、柵の向こうから冷たい空気が上がってくる。
「……懐かしいな」
若井が呟いた。
「そうだね」
僕も夜景を見た。ここに来ると、いつも昔のことを思い出す。
三人でくだらない話をしたこと。どうでもいいことで笑ったこと。まだ今ほど忙しくなかった頃のこと。
あの頃は、未来のことなんて何も分からなかった。それでも、三人でいれば何とかなると思っていた。若井が、ゆっくり息を吐いた。
「俺さ」
その声で、僕は若井を見る。
「やっぱり、やりたいんだ」
何のことかなんて、聞かなくても分かった。
「……ソロ?」
「うん」
若井は夜景から目を離さなかった。
「さっきも言ったけど、ミセスを辞めたいわけじゃない」
「分かってるよ」
「本当に?」
「本当に」
若井は少し黙った。風が二人の間を通り抜けていく。
「俺、ミセスが好きなんだよ」
「うん」
「三人でやってきたことも、全部大切にしたい」
若井の声は、昼間よりずっと落ち着いていた。
「だから、これからも三人でやりたい」
僕は何も言わずに聞いていた。
「でもさ」
若井が、少しだけ笑った。
「俺が一人で音楽やりたいって思うことまで、否定されたくないんだよ」
その言葉に、胸の奥が重くなる。否定したつもりなんてなかった。若井の気持ちだって分かっていた。
それでも、僕の言葉は若井にとって、そう聞こえてしまっていたのかもしれない。
「……否定してるつもりはないよ」
「じゃあ、なんでミセスを優先しろって言うの?」
僕はすぐには答えられなかった。遠くで車のライトが一つ、また一つと流れていく。その光を目で追いながら、僕は言葉を探した。
「……三人でやってきたものだから」
「うん」
「だから、僕は大事にしたい」
「俺も大事だよ」
返事が早かった。若井は僕を見る。
「何回言えば分かってくれる?」
その声には、昼間とは違う苛立ちが混ざっていた。
「俺だって、三人でやってきたものを壊したいわけじゃない」
「分かってる」
「じゃあ__」
若井が言葉を止めた。
ポケットからスマートフォンを取り出したからだ。画面が一瞬、夜の中で白く光った。若井はそこに表示された何かを見つめている。
表情は見えなかった。
「……どうしたの?」
「いや」
若井は画面を閉じた。
「ちょっとトイレ行ってくる」
「分かった」
若井は来た道を戻っていった。僕はその背中を見送った。
小さくなっていく足音が、やがて聞こえなくなる。一人になると、急に辺りが静かに感じられた。さっきまで隣にいた人間がいなくなっただけなのに、こんなにも景色が広く感じる。
風が吹く。柵が小さく揺れた。僕は何となくその向こうを見た。
暗い。
でも、その先には確かに街がある。遠くの光だけが、何も知らないように瞬いていた。
どれくらい経ったのか分からない。やがて、足音が戻ってきた。
「ごめん、待たせた」
若井だった。
「ううん」
僕は振り返った。
若井は何事もなかったように、僕の隣に立った。けれど、さっきまでとは少しだけ違って見えた。
「……続き、話そ」
「うん」
また二人で夜景を見る。けれど、今度は沈黙が長かった。
僕は何かを言おうとして、何度もやめた。若井も同じだったのかもしれない。言葉にできないものだけが、二人の間に残っていた。
「元貴」
「ん?」
「俺のこと、どう思ってる?」
突然の質問だった。
「どうって……」
「仲間として」
僕は若井を見る。若井は笑っていなかった。
「……大切だよ」
そう答えると、若井は少しだけ目を伏せた。
「そっか」
それだけだった。
その直後。若井のスマートフォンが震えた。小さな音だった。でも、静かな場所だったから、はっきり聞こえた。
若井はポケットからスマートフォンを取り出す。画面を見た瞬間、その表情が変わった。
「……若井?」
僕が呼んでも、返事はない。ただ、画面を見つめている。
数秒。
ほんの数秒だったはずなのに、妙に長く感じた。やがて若井は、ゆっくりとスマートフォンから顔を上げた。そして僕を見る。その目に浮かんでいたものが何だったのか、僕には分からなかった。
「……お前の言ってること、自己中心的なんだよ」
その言葉だけが、夜の静けさの中に落ちた。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。さっきまであんな熱い話をしていたのに。
頭の中で、その言葉だけが何度も繰り返される。自己中心的。僕が?胸の奥に、今まで押し込めていたものが一気に込み上げてきた。
「……は?」
自分でも驚くほど低い声が出た。若井は何も言わない。その沈黙が、余計に腹立たしかった。
「おい、ふざけんなよ!」
僕が一歩、若井に近づいた。
その瞬間_____
若井の身体が、視界から消えた。
「……え」
何が起きたのか、理解できなかった。ただ、伸ばした手だけが宙に残っていた。
風の音がした。
さっきまで隣にいたはずの若井が、そこにいなかった。
僕はその場に立ち尽くした。何も考えられなかった。
ただ、目の前の景色だけが、異様なほど静かだった。
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